コーヒー本「スペシャルティコーヒーのテイスティング」のレビューになります。
スペシャルティコーヒーのテイスティング
◆4,180円(Amazon)
概要

堀いわずとしれた業界の先駆者。集大成のニュースタンダードな一冊を発表
1990年にコーヒーショップ「(株)堀口珈琲」を開業。2019年に東京農業大学大学院・環境共生学博士課程卒業。在学期間中から現在まででコーヒーについての論文も発表している。
SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)の理事でもある。国際コーヒー科学会などで論文も発表。
論文:「スペシャルティコーヒーの品質基準を構築するための理化学的評価と官能評価の相関性に関する研究」「コーヒー生豆の流通過程における梱包,輸送,保管方法の違いが品質変化に及ぼす影響」等(ウェブ上で閲覧可能)
テイスティングを通してコーヒーを読み解く。
32か国の生産国や特筆すべき品種やエリアのコーヒーそれぞれのデータを、標高、品種、精製等の事前情報とあわせて味覚センサーによる解析を行い、プロのカッパーによってテイスティングされた結果と比較。生きた知識と科学的な裏付けを融合させたプロッフェッショナルな内容が詰まっている。
主観を取り払い味わいの伝達、共有、評価を可能に。
テイスティングでの裏付けとすり合わせありきで解説される本書。
伝達や共有や評価の難しい「味わい」に明確な基準や具体性を持たせてくれる、唯一無二の一冊。
スペシャルティコーヒーを読み解きりかいするテイスティングを知る。
第1章 テイスティングとは
コーヒーを楽しむ
01 私の30年のテイスティングの変遷と本書の目的
・01-1 1990年代前半 汎用品の時代
・01-2 1990代後半 プレミアムコーヒー全盛期
・01-3 1990年代のプレミアムコーヒー のテイスティング
・01-4 2000年代前半 スペシャルティコーヒーの黎明期
・01-5 2000年代前半のSPのテイスティング
・01-6 2000年代後半スペシャルティコーヒーの発展期
・01-7 2010年代前半スペシャルティコーヒーの成熟期へ
・01-8 2015年事業承継以降知的財産の承継と新しい評価基準
・01-9 2022年以降SPに対する消費国間、世代間の価値観の乖離
・01-10 コーヒー産業の構造的問題
・01-11 生豆調達とLCF(Leading Coffee Family)
02 テイスティングとは
・02-1 テイスティングとは
・02-2 なんのためにテイスティングをするか
・02-3 コーヒーの風味とは
・02-4 筆者のテイスティング
・02-5 テイスティングの基本ルール
・02-6 一杯のコーヒーから多くの情報を読み取ることができる
03 テイスティングの基本用語
・03-1 JISの基本用語
・03-2 フローラル(Floral note)の用語
・03-3 フルーティ(Fruity)の用語
・03-4 その他の用語
・03-5 有機酸の用語
・03-6 テクスチャーの用語
・03-7 欠点の風味の用語
・03-8 コーヒーの感覚表現用語
・03-9 フレーバーホイール(Flavor wheel)
・03-10 WCRのLEXCON
・03-11 SUSTAINABLE HARVESTの Tastify
・03-12 コーヒーの風味表現 ピンクブルボン品種の事例 68
・03-13 2021年インターネットオークションにおける語彙事例
・03-14 2022年インターネットオークションにおける語彙事例2
第2章 品質評価の方法
04 SCA方式による品質評価
・04-1 スペシャルティコーヒーとは
・04-2 日本のスペシャルティコーヒー
・04-3 SCAの生豆鑑定
・04-4 サンプルの欠点豆をカウントしてみる
・04-5 SCAのカッピング規約(プロトコル)
・04-6 SCAの評価手順
・04-7 個別の評価の仕方
・04-8 筆者のSCA方式の評価基準
・04-9 COEの官能評価
・04-10 SCAJの官能評価
・04-11 現状のコーヒーテイスティングの問題点
・04-12 SCAのSP基準の見直し
05 理化学的数値による品質評価
・05-1 科学的な観点からコーヒーをみる
・05-2 コーヒーの基本成分を分析する
・05-3 理化学的分析方法
・05-4 有機酸(Organic Acid)が風味に与える影響
・05-5 脂質(Lipid)の風味にあたえる影響
・05-6 酸価(Acid Value)の風味に与える影響
・05-7 ショ糖(Scrose)の風味に与える影響
・05-8 アミノ酸が風味に与える影響
・05-9 カフェインが風味に与える影響
・05-10 香りの影響
・05-11 生豆の水分値
・05-12 水質が風味に与える影響
06 味覚センサーによる品質評価
・06-1 味覚センサーとは
・06-2 味覚センサーの効用と限界
・06-3 味覚センサーのグラフのみかた
・06-4 官能評価と味覚センサーの相関性
07 新しい10点方式(50点満点)の官能評価
・07-1 消費者が可能な官能評価へ
・07-2 新しい官能評価へ
・07-3 官能評価と理化学的数値の相関性
・07-4 理化学的数値の振れ幅と平均値から評価基準を決める
・07-5 SCA方式と新しい10点方式の官能評価点数の相関性
・07-6 10点方式と理化学的数値の相関性の検証
・07-7 10点方式と味覚センサーの相関性の検証
・07-8 「10点方式」のわかりやすい評価基準
・07-9 今後の評価項目とその基準
・07-10 新しい10点方のテイスティング事例
・07-11 2022-23CropでSCA方式と10点方式の相関性を検証
第3章 さまざまな品種のテイスティング実践
品種の特定は難しい
08 アラビカ種のテイスティング
・08-1 品種とは
・08-2 アラビカ種とカネフォーラ種の違い
・08-3 アラビカ種とカネフォーラ種の風味差
・08-4 アラビカ種の栽培品種
・08-5 WCRのアラビカ種の品種区分
・08-6 エチオピア在来種のテイスティング
・08-7 イエメン在来種のテイスティング
・08-8 ゲシャ品種のテイスティング
・08-9 ティピカ品種のテイスティング
・08-10 ブルボン品種のテイスティング
・08-11 SL品種のテイスティング
・08-12 カトゥーラ品種のテイスティング
・08-13 カトゥアイ品種のテイスティング
・08-14 パカマラ品種のテイスティング
・08-15 マラゴジペ品種、マラカトゥーラ品種、ジャバ品種、ジャバニカ品種のテイスティング
・08-16 サン・ロカ-ケニア品種(San Rocca-Kenia)のテイスティング
・08-17 シドラ品種のテイスティング
・08-18 スーダンルメ品種のテイスティング
・08-19 F1品種のテイスティング
09 カティモール品種とサルティモール品種
・09-1 ハイブリッドティモール(HIBRID de TIMOR)
・09-2 カティモール品種のテイスティング
・09-3 カティモール品種の再考
・09-4 LC/MSによる有機酸とアミノの分析
・09-5 コロンビア品種のテイスティング
・09-6 カスティージョ種のテイスティング
・09-7 その他のカティモール品種とサルティモール品種
10 カネフォーラ種
・10-1 カネフォーラ種(ロブスタ種)のテイスティング
・10-2 リベリカ種のテイスティング
・10-3 カネフォーラ種増加に対しての対応
・10-4 病害虫について
11 さまざまな品種
・11-1 さまざまな品種のテイスティング
・11-2 グァテマラに植えられた様々な品種
・11-3 コロンビアのさまざまな品種のテイスティング
・11-4 ブラジルの代表的品種のテイスティング
・11-5 インドネシアの品種のテイスティング
・11-6 その他のさまざまな品種
第4章 各生産国のテイスティング実践
12 南米産のコーヒーテイスティング
・12-1 ブラジル(Brazil)産のテイスティング
・12-2 コロンビア産のテイスティング
・12-3 ペルー産のコーヒーテイスティング
・12-4 エクアドル産のコーヒーテイスティング
・12-5 ボリビア産コーヒーのテイスティング
13 中米生産地のコーヒーテイスティング
・13-1 パナマ産コーヒーのテイスティング
・13-2 2021 Best of Panamaの品種(ナチュラル)テイスティング
・13-3 2021 Best of Panamaの品種(ウォッシュト)テイスティング
・13-4 グァテマラ産コーヒーのテイスティング
・13-5 コスタリカ産コーヒーのテイスティング
・13-6 エルサルバドル産のコーヒーのテイスティング
・13-7 ニカラグア産コーヒーのテイスティング
・13-8 ホンジュラス産コーヒーのテイスティング
・13-9 中米産ナチュラルのテイスティング
14 アフリカ産のコーヒーテイスティング
14-1 エチオピア産コーヒーのテイスティング
14-2 イエメン産のコーヒーのテイスティング
14-3 ケニア産のコーヒーのテイスティング
14-4 タンザニア産のコーヒーのテイスティング
14-5 ルワンダ産のコーヒーのテイスティング
14-6 ブルンジ産のコーヒーテイスティング
15 カリブ海の島々のコーヒーテイスティング
15-1 ジャマイカ産のコーヒーのテイスティング
15-2 キューバ産のコーヒーのテイスティング
15-3 ドミニカ産のコーヒーのテイスティング
15-4 プエルトリコ産のコーヒーのテイスティング
15-5 ハワイ産のコーヒーのテイスティング
16 アジア圏生産地のコーヒーテイスティング
16-1 インドネシア・スマトラ産のテイスティング
16-2 PNG(パプアニューギニア)産のコーヒーのテイスティング
16-3 東ティモール産のコーヒーのテイスティング
16-4 中国産のコーヒーのテイスティング
16-5 フィリピン産のコーヒーのテイスティング
16-6 ラオス産のコーヒーのテイスティング
16-7 インド産のコーヒーのテイスティング
16-8 ミャンマー産のコーヒーのテイスティング
16-9 ネパール産コーヒーのテイスティング
16-10 2021-22Crop 流通しているアジア圏産のテイスティング
16-11 沖縄産のコーヒーのテイスティング
17 その他のコーヒーのテイスティング
17-1 ピーベリーのテイスティング
17-2 Newt CropとOld Cropのテイスティング
17-3 Past Cropのテイスティング
17-4 欠点豆のテイスティング
17-5 オークションロットの日本入港後のテイスティング
17-6 コマーシャルコーヒーのテイスティング
17-7 植物としてのコーヒーの味
第5章 テイスティングのための基礎知識
18 栽培環境とコーヒーの品質
18-1 コーヒーはどのような植物か
18-2 コーヒーは熱帯作物で気候条件が品質に影響する
18-3 コーヒー生産地は火山灰土壌が多い
18-4 コーヒーは直射日光を嫌う
18-5 緯度と標高の関係を知る
18-6 コーヒーの栽培管理が風味に影響する
18-7 さまざまな収穫方法
18-8 気候変動により2050年には大幅な減産が予測される
19 精製方法とコーヒーの品質
19-1 精製とは
19-2 ウォシュト(Washed)の精製
19-3 ナチュラル(Natural)の精製方法とは
19-4 ブラジルの3つの精製方法
19-5 コスタリカのハニープロセス
19-6 ハニープロセスの拡散
19-7 ケニアのダブルウォシェト(Double Washed=Soaking)
19-8 スマトラ方式の精製
19-9 乾燥方法について
19-10 精製方法と発酵について
20 嫌気性発酵とコーヒーの品質
20-1 嫌気性発酵(Anaerobic:アナエロビック)とは
20-2 アナエロビックの方法
20-3 ブラジルのアナエロビック
20-4 Brazil Daterra農園のアナエロビック
20-5 パナマのASD(Anerobic Slow Dry)
20-6 グァテマラのアナエロビック
20-7 コスタリカのアナエロビック
20-8 イエメンのアナエロビック
20-9 エクアドルのアナエロビック
20-10 コロンビアのアナエロビック
21 焙煎とコーヒーの品質
21-1 焙煎は重要な仕事
21-2 焙煎とは
21-3 焙煎の方法 404
21-4 焙煎機の操作(初期設定)
21-5 焙煎のブレを減らす
21-6 さまざまな焙煎度のコーヒー
21-7 焙煎度をどのように決めるのか
21-8 焙煎度による風味の変化
21-9 焙煎豆の保存方法は
21-10 よい品質の焙煎豆の見分け方
21-11 様々な焙煎機
21-12 自宅で焙煎ができますか?
21-13 生豆をどのように入手すればよいか
22 流通過程とコーヒーの品質
22-1 日本はブラジルとベトナムからの輸入量が多い
22-2 乾燥後のドライミル精製の流れ
22-3 コーヒーの収穫時期と生豆の入港時期は産地により異なる
22-4 生産国から日本までの生豆の流れ
22-5 梱包材質としてはVP(真空パック)が最も鮮度保持に効果的
22-6 常温コンテナより冷蔵コンテナの方が鮮度維持できる
22-7 生豆は常温倉庫より、定温倉庫の方が鮮度保持できる
22-8 コーヒー生豆の賞味期限 New CropとPast Crop
22-9 Hard Bean(硬質豆)とSoft Bean(軟質豆)
22-10 流通過程における理化学的数値の変化
22-11 ケニア産とコロンビア産の流通形態による風味差
22-12 日本国内の生豆流通
22-13 日本国内の焙煎豆の流通
22-14 生豆の価格の変動が、農家の生活を圧迫している
22-15 SP生豆価格とその流通
23 味覚のトレーニング
23-1 トレーニングの方法
23-2 スキルアップのための飲み比べ例
出典:スペシャルティコーヒーのテイスティング
堀口版スペシャルティコーヒー大全

テイスティング(カッピング)、生豆品種、焙煎、生産国、コーヒーのニッチな題材をとことん深堀
論文さながらの内容で、もはや研究資料。コーヒー辞典として手元に置いておきたい一冊。
本書のボリューム(B5サイズで448p)もさることながら、同氏ならではのプロのネットワークや研究設備を用いた考察は、専門書ではなくもはや論文。解説だけでなく、写真の資料も多く実用的。

ロブスタやリベリカ、希少品種やピーベリー、欠点豆のテイスティングなど通常では知りえないピンポイントなテーマにも言及。愛好家やプロが知りたいけど難しいニッチなテーマも余すことなく解説。(目次参照)
専門性の高さ故、初心者は手に取ることができない。
最近の堀口氏の出版物全般に言える傾向だが、解説される題材(品種や生豆の成分、評価基準の策定など)のレベルが高い。基本的な知識はある事が前提の完全にプロ向けな仕上がりとなっている。

上級者向けの本が少ないコーヒー専門書界隈においてはむしろ貴重ではある。本書の前に出版された「新しい珈琲の基礎知識」を読んでからこちらを読むか、ウェブサイト等で勉強してからが良いかも。
科学、品種、精製、栽培、焙煎、全て、これ一冊で。

品種のルーツや精製と味わいの相関、焙煎による化学変化の解説などすべて1冊に。
テイスティングと理化学的な解析によって、各品種、精製、焙煎での相関性を主観ではなく、数字と傾向、そして同氏の経験による補足の3段構えで学べる。
テイスティングでの評価と美味しいの定義を解説する中で「エチオピアの在来種とは何なのか?」「アナエロビックて結局どうなの?」「焙煎のブレを減らすにはどうすればいいの?」など上級者やプロならではの疑問が解消できる構成。

基本的な入門書の内容と違い、上記のような本書でなければ知りえない題材が多いのが大きな魅力。ネットを含めまだまだ情報の少ない「品種」関連の情報は貴重。
以上「スペシャルティコーヒーのテイスティング」レビューでした。
いきなり本を買うのは…という方はまず堀口氏の論文(「堀口俊英 論文」でウェブ検索)を見てみるのもおすすめです。
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