コーヒー本「THE STUDY OF COFFEE」(ザ スタディ オブ コーヒー)のレビューになります。
THE STUDY OF COFFEE
◆2,750円(Amazon)
著者 堀口俊英
刊行 2020年10月29日
概要
Lesson 1 生豆の品質がおいしい風味を生み出すことを知る
コーヒー生豆の品質が味わいと相関しているということを「品種」「精製」「欠点数」という3つの軸を根拠に解説されています。
東京農業大学院の研究設備で実際に筆者が検証した生のデータをもとに解説。
他の専門書ではあまり言及されていない、「COとSP(※)の違い」を実際に検出したデータで示すことで、味わいとの相関関係がしっかりと確認できます。
これまで何度も比較されてきた「ロブスタ種とアラビカ種」ではなく、アラビカ種どうしで高品質品のスペシャルティとコマーシャル(コモディティ)を比較している貴重な検証。
※「COとSP」とは
CO:コマーシャルコーヒー、またはコモディティコーヒー(汎用品)
SP:スペシャルティコーヒー(高品質品)
Lesson 2 科学的データから品質を知る
コーヒーのどの成分がどんな味に関係しているのか、苦み、酸味、渋み、塩味、旨味からなる「五味」を軸に、解説されています。
「味覚センサー」を使用して数値化された味わいと成分との相関を知れる。
計器を用いて数値化された味覚データで、味わいとの相関性を検証。主観を排除し、数値化されたからこその考察は貴重です。
掲載されているサンプルデータの一例として、コロンビア、ケニア、マンデリンなどがありますが、どれも実際の風味特性と数値が一致しているのがおもしろいところ。
Lesson 3 なぜ焙煎するのかその意味を知る
「なぜ焙煎するのか」そして、焙煎がコーヒー生豆にどのように影響するのか。焙煎プロファイルや焙煎度などを軸に、シンプルかつ具体的に解説されています。
焙煎においても、もちろんしっかりと科学的な検証。
「焙煎豆を味覚センサーにかけてみる」というトピックのなかで、焙煎度ごとの味わいが数値化などもされており、読者には数値化されているからこその新しい発見があると思います。
標高や品種などで変化する「かさ密度」から適切な焙煎度を考察するなど、プロならでは考え方が知れるのは貴重です。
Lesson 4 抽出の「基本のき」を理解する
粒度、粉の量、熱水温度、抽出時間、抽出量などの、コーヒーの抽出における味わいの変動要因を各項目ごとに検証、考察されています。
「蒸らし透過法」や「継続的透過法」など各4種の抽出法を比較考察。
ハンドドリップのような抽出法を透過法と呼びますが、この透過法をさらに2つに分類されて検証しているのは、本書のみ!?
本章で紹介されている手回しミルが中々独特で、レトロなラインナップなのが癒されます。
Lesson 5 様々なドリッパー
「カリタ」「メリタ」「ハリオ」「コーノー」他定番ドリッパーの数々を紹介。ドリッパーの形状や、各社公式の淹れ方を元に、考察されています。
ドリッパーのカタログとしても楽しめる。
各ドリッパーについての考察は、どれも具体的かつ科学的なのはもちろんですが、ドリッパー関連だけで10アイテムと、カタログとしても見ごたえ満点です。
本章で紹介される堀口氏の秘蔵アイテム「ドリップ・シャワー」は既に生産中止との事ですが、ハリオドリップアシストはどうなのか気になるところ。
Lesson 6 プアオーバードリッパーの多様化
日本がルーツのハンドドリップが、海外に渡り「プアオーバー」として広まり、浸透、進化していきました。
実は日本発祥のプアオーバーもとい「ハンドドリップ」
今では世界的にみてもかなり一般的なものとなったハンドドリップですが、2010年頃に海外の有名ロースターがハリオv60を使ってハンドドリップをしたことがきっかけとなり広まったとか。
アメリカなどではハンドドリップのことを「プワオーバー」言うようです。
Lesson 7 私の抽出方法
「堀口珈琲研究所の基本抽出はコク(Body)を表現する抽出方法」という基本方針のもと、深煎りでも酸味とコクのバランスが取れたコーヒーを目指し抽出方法を考案。
「基本の抽出」だけじゃない堀口式のコーヒー抽出。
本章で紹介される抽出方法は「基本の抽出」の他に「20ml-10秒リズム抽出法」や「スターラー抽出法」な人やこだわりに合わせた抽出方法が解説されています。
「基本の抽出」はコーノーの公式レシピに近い雰囲気で、ネルのようなコクを出す事を狙っているのかも。
Lesson 8 抽出における風味の変動要因を確認する
「コーヒー抽出液の98.6%が水である」など4章でふれた抽出の基本から、さらに一歩踏み込んで科学的に解説。
より重要度の高い4つのファクターを深堀。
「抽出に使う水の影響」「温度と時間の相補的関係」「粉の粒度」「粉の量」など、コーヒー抽出における変動要因の中でも、特に重要な4つに注目して解説されています。
「水の硬度がコーヒーの味わいにどのような影響を与えるのか」など、知っておくだけですぐに実践できる内容ばかりです。
Lesson 9 自分の抽出チャートを作成する
ここまでで学んだ抽出に関する知識を元に、自分だけの抽出チャートを作成、調整に挑みます。
実例のチャートを元にすれば誰でも自分のチャートが作れる。
実際にどのようなチャートを作り検証されているのかすべて掲載されているので、それを元に自分のチャートを作り、調整する事ができます。
掲載されているチャートの味わいのベストポイントは1つではなく複数あるので、本当の意味で自分の好みのコーヒーを淹れるための、抽出チャートを作る事ができるかも。
Lesson 10 抽出したコーヒーの風味をどのように表現するのか
アメリカスペシャルティコーヒー協会(SCA)が作成したフレーバーホイールではなく、あくまでも日本人が理解できて、共有できる官能表現を追求されています。
日本人が食べる機会がるもの、感じ取れる範囲を区分して官能表現用語を設定。
イチゴなら「とちおとめ」リンゴなら「ふじ」など銘柄も記載して、堀口流の官能表現用語を解説しており、実際のカッピングに取り入れやすくなっています。
プロと消費者を隔てている要素の中でも大きい官能表現は、ぜひ日本の消費者に向けても分かりやすいものに変わっていってほしいと思います。
Lesson 11 抽出したコーヒーをどのように評価するのか
コーヒーの味わいと、それをとらえ表現する事について、様々な要因を考えて多角的に解説されています。
味わいの表現の根幹は経験にあり。
著者は味わいの表現における重要なポイントの1つとして、美味しいコーヒーを飲み、相対性を増していく、という事など「経験」していく事が重要だと説いています。
何をどのように経験していけばよいのか、本項も含め情報も相対性を高めていく事でより確かな経験を積む助けになりそうです。
Lesson 12 ブレンディングを考える
日本コーヒー界きっての「ブレンドの匠」堀口珈琲創業者がかたるコーヒーのブレンディングとは。
ブレンディングのコツを①~⑥までの6つに分けて解説。
「⑥ベースになる豆の比率を40%程度にし~(以下略)」など、どの項目も具体的な解説で、極めて実践的な情報が公開されています。
抽出に重きを置いた本科と思いきや、とても太っ腹な内容で、ブレンディングの知識も余すことなく語られています。
まとめ
Lesson 1 生豆の品質がおいしい風味を生み出すことを知る
- コーヒーは不安定な農作物
- コーヒーの風味は4つに区分される
- 栽培環境とコーヒーの風味
- コーヒーの風味は品種により異なる
- コーヒーの風味は精製方法に影響を受ける
- コーヒーの風味は生豆の欠点数に影響を受ける
- グリーングレーディング
- 品質のよいコーヒーは風味がよい
- コーヒーは風味は流通過程の影響を受ける
Lesson 2 科学的データから品質を知る
- コーヒー生豆の基本成分が風味を構成する
- 生豆の基本成分以外でコーヒーの風味に影響を与える成分
Lesson 3 なぜ焙煎するのかその意味を知る
- なぜ焙煎するのか
- 小型焙煎機の構造と種類
- 焙煎のプロファイルを知る焙煎方法を学ぶ
- 焙煎方法を学ぶ
- 焙煎度により風味が変化することを知る
- 基本焙煎の初期設定
- ローストの8段階
- 各生産国の生豆の適切な焙煎度を知る
- 焙煎豆を味覚センサーにかけてみる
- 生豆の賞味期限を知る
- 焙煎豆の賞味期限と保存方法を知る
- 焙煎を楽しむ
Lesson 4 抽出の「基本のき」を理解する
- 粒度、粉の量、熱水温度、抽出時間、抽出量により風味は変化する
- 透過法と浸漬法の違いを知る
- 抽出方法にあったドリップポットを選択する
- ミルの性能は風味に大きな影響を与える
- 様々な電動ミルと選び方
Lesson 5 様々なドリッパー
- ドリッパーの機能性について知る
- 伝統的なドリッパーの形状にあった抽出方法とは
- 多種多様なドリッパーの開発の動き
- ドリップ・シャワーとは何か
Lesson 6 プアオーバードリッパーの多様化
- 米国における抽出革命
Lesson 7 私の抽出方法
- 堀口珈琲研究所の基本抽出はコク(Body)を表現する抽出方法
- 基本の抽出方法
- 20ml-10秒リズム抽出法
- スターラー抽出法
- ネルドリップを試してみる
- 濃縮コーヒー(エキス)の抽出に挑戦する
- フレンチプレスは微粉が気にならなければ簡単で便利な抽出方法
- アイスコーヒーは今や世界で飲まれている
Lesson 8 抽出における風味の変動要因を確認する
- コーヒー抽出液の98.6%が水。風味への影響は大きい
- 熱水温度は抽出時間と相補的な関係にあり味の質感に影響する
- 粒度はコーヒーの風味に大きな影響を与える
- 粉の量でコーヒーの濃度を調整する
- 抽出時間と抽出量を変えることで風味をコントロールする
- 焙煎度の違う豆の抽出方法
- コーヒー抽出の様々なこだわり
Lesson 9 自分の抽出チャートを作成する
- オリジナルレシピの開発を目指す
- 自分の抽出チャートを作成する
Lesson 10 抽出したコーヒーの風味をどのように表現するのか
- テースティングの用語(語彙)
- 香り(Aroma)の用語
- 酸味(Acidity)とフルーティー(Fruity)の用語
- 果実の用語
- スイート(Sweet)の用語
- その他の用語
Lesson 11 抽出したコーヒーをどのように評価するのか
- おいしさは、食品を摂取したときに引き起こされる快い感覚
- 五味は、甘み、酸味、苦味、塩味、旨味
- SCAのカッピング
- コーヒーの風味を感知する感覚は食文化によって異なる
- コーヒーのテースティングとは
- 新しいテースティングの評価項目とは
- テースティングの評価基準について
- 実際の官能評価事例
Lesson 12 ブレンディングを考える
- ブレンドの目的を知る
- ブレンドの作り方
以上、12章、72項のトピックについて説明されています。
非凡なコーヒー専門書をお求めの、玄人にもおすすめな濃度。
名店「堀口珈琲」の創業者堀口俊英氏が2016年~2019年にかけて東京農業大学院で研究した資料や知識も盛りこまれ、良い意味でプロ向けな一冊。データの鮮度や考察の深さなどは他書では味わえないニッチな良書でした。
コメント