コーヒーの焙煎において「蒸らし」とは何なのか・・・
※『コーヒー焙煎「水抜き」についての考察』にて一度水抜きの誤用として否定しておりますが、今回解説にてその違いも含め解説します。
・「蒸らし」とはなんなのか
・蒸らしの定義
・蒸らしの方法
解説していきます。
蒸らしとは
「蒸らし」には別の狙いを持った二つの意味が含まれています。
①不揃いな豆の水分をダンパーを閉め気味にして弱火でゆっくりと水分を抜く事。
蒸らしというのは生豆を投入してダンパーを閉め気味にし、弱火で水分を抜いていく作業をいう。(①)
出典:「スペシャルティコーヒー大全」92p
②コーヒー焙煎の前半で加水分解(水分を利用した熱反応)を優勢にして、前駆物質を増やし、その後のメイラード反応を促進してフレーバー等を発達させる準備の事。
水分が残った状態(投入直後と推定)で、温度が上がると、ある種の化学反応が加速されます。加水分解と呼ばれる反応で、(これによりタンパク質や糖類が分解)水抜き後のメイラード反応という別の化学反応を起こしやすくなります。焙煎特有の香ばしい香りや、チョコのようなコクを生み出すのに重要な反応です。つまり適度な蒸らしは香りやコクを強める働きがあるんです(②)
出典:「ホーム・コーヒー・ロースティング」28p
以前はどちらかと言えば①の意味合いが強い工程でしたが、原材料である生豆の品質が上がり、水分や大きさのバラツキが少なくなり、そして、焙煎の科学が解き明かされてきたことで②の考え方が普及してきたように思います。そして、結果的にそれぞれを別々に定義して扱うアプローチが出てきました。
蒸らしの定義
ここからは「蒸らし」と「水抜きは」それぞれ別の工程と解釈して各文献を参考に定義します。
そもそも「蒸らし」や「水抜き」がそれぞれどのような意味で使われているのか考察し、区別して定義します。
「水抜き」
生豆というのはおおむね豆の大きさや厚さ、含水量などにバラツキがあるので、そのバラツキを少なくするための一工夫「水抜き」をほどこす
出典:「珈琲大全」74~75p
この一工夫「水抜き」を整理すると以下のようになる☟
「水抜き」とは
- 焙煎初期にダンパーを閉じ気味にして、弱火でゆっくりと水分を抜く
- ゆっくりと水分を抜くことで、大きさや厚さ、豆ごとの含水量のバラツキを少なくする
- 1ハゼ手前までに水分を一定以下にすることで、焙煎後半の「脱水縮合」を促進して、渋みや悪い苦みを抑える。
※参考文献「珈琲大全」「スペシャルティコーヒー大全」等
「蒸らし」
水分が残った状態(投入直後と推定)で、温度が上がると、ある種の化学反応が加速されます。加水分解と呼ばれる反応で、(これによりタンパク質や糖類が分解)水抜き後のメイラード反応という別の化学反応を起こしやすくなります。焙煎特有の香ばしい香りや、チョコのようなコクを生み出すのに重要な反応です。つまり適度な蒸らしは香りやコクを強める働きがあるんです
出典:「ホーム・コーヒー・ロースティング」28p
+
『蒸らし』の味を出したい場合に、火力強めで(焙煎を)開始して後のほうのペースを遅らせて帳尻合わせをする。
出典:「ホーム・コーヒー・ロースティング」29p
この香りやコクを強める「蒸らし」を整理すると以下のようになる☟
「蒸らし」とは
- A.焙煎前半で水分が逃げないようダンパーを閉じ気味にする
- B.または投入直後、豆の含水量が多い時に強い火力を与える
- あるいはAとBの操作を同時に行う
- そうすることによって、前半の「加水分解」を促しその後のメイラード反応を活発にする
※参考文献「ホーム・コーヒー・ロースティング」等
そして、それぞれを区別して定義すると、重複している項目があることに気が付きます。☟
水抜きと蒸らしの共通点
①ダンパーを閉じ気味にして水分が逃げる事を抑制、つまりコントロールする事。
②ともに焙煎前半(投入直後)から行われる操作である事。
この2つの共通点がこれまで「水抜き」と「蒸らし」が同義として扱われていた主な原因だと思われます。
ここで、①と②がそれぞれどのような目的で行われていたのかを考察すると、明確な違いがあることに気が付きます。
①ダンパーを閉じ気味にして水分が逃げる事を抑制、つまりコントロールする事。
②ともに焙煎前半(投入直後)から行われる操作である事。
※豆温度は焙煎機や豆、環境などにより計器の計測値等振れ幅があるので、参考程度に。
※参考文献「コーヒーおいしさの方程式」「Roast Design Coffee Blog様(ファナティック三神氏)」
つまり、それぞれ共通する項目はあるが、目的が異なっており
「水抜き」は豆温度180℃程度に到達するまでに、内部まで火を通して、水分を抜く事を目的としている。
「蒸らし」は豆温度140℃程度に達するまでに加水分解を促進してメイラード反応の促進を目的としている。
という明確な違いがある事が分かります。
そもそもなぜ水抜きが必要なのか、何をもって180℃までに終わらせる必要があるのかはこちらをチェック☟
少し古い記事で今使っている焙煎機とは違っていたり補足が必要な項目もあるので、より詳細に知りたい方は「コーヒーおいしさの方程式」や「コーヒーの科学」がおすすめ
では、実際に焙煎する時にそれぞれをどのように区分して行うのか、水抜きと蒸らしそれぞれの完了の温度差に着目して考察します。☟
蒸らしの方法と水抜きの区分した焙煎操作
厳密に考えると、蒸らしと水抜きは同時進行しているが、前半の豆温度にして140℃程度までを蒸らし、その後の豆温度180℃程度までを水抜きと考えると分かりやすい。
①蒸らしの「高火力」や「ダンパーを閉め気味にする」等の操作
メイラード反応の促進つまり豆温度にして140℃程度に到達するまでに行う操作であり・・・
②水抜きの「180℃以下の温度帯で一定時間熱をいれる」等の操作
一ハゼの手前までに豆の水分を抜く、豆温度にして180℃程度に到達するまでに行う操作であり・・・
これを踏まえたうえで私の場合は図の投入から約3分を蒸らし(高火力)それ以降から7分までの間を水抜きと区別して、操作しています。(もちろん場合により変わります)
※先に記述したように焙煎機や豆、投入量などによっても計測温度が変わるため、記述されている温度と進行が異なりますが、ご了承ください。
あれ?蒸らしの操作と水抜きの弱火~中火でゆっくり火力を与える操作(前半重複部分)が矛盾してない?
結論、豆ごとの大きさや含水量がそろっている豆であれば、前半高火力でも問題なく水抜きができる。
また、多少の生焼け感より、香りを重視するならそれでも良い、となります。
私はどんな豆でもとりあえず前半高火力で攻めてみますが。(笑)
結局、豆や、表現したい味わいによる、と言えそうです。
まとめ
コーヒー焙煎における「蒸らし」とは
①不揃いな豆の水分をダンパーを閉め気味にして弱火でゆっくりと水分を抜く事。
②コーヒー焙煎の前半で加水分解(水分を利用した熱反応)を優勢にして、前駆物質を増やし、その後のメイラード反応を促進してフレーバー等を発達させる準備の事。
そもそも「蒸らし」や「水抜き」がそれぞれどのような意味で使われているのか考察し、区別して定義します。
「水抜き」とは
- 焙煎初期にダンパーを閉じ気味にして、弱火でゆっくりと水分を抜く
- ゆっくりと水分を抜くことで、大きさや厚さ、豆ごとの含水量のバラツキを少なくする
- 1ハゼ手前までに水分を一定以下にすることで、焙煎後半の「脱水縮合」を促進して、渋みや悪い苦みを抑える。
「蒸らし」とは
- A.焙煎前半で水分が逃げないようダンパーを閉じ気味にする
- B.または投入直後、豆の含水量が多い時に強い火力を与える
- あるいはAとBの操作を同時に行う
- そうすることによって、前半の「加水分解」を促しその後のメイラード反応を活発にする
①ダンパーを閉じ気味にして水分が逃げる事を抑制、つまりコントロールする事。
②ともに焙煎前半(投入直後)から行われる操作である事。
それぞれ共通する項目はあるが、目的が異なっており
「水抜き」は豆温度180℃程度に到達するまでに、内部まで火を通して、水分を抜く事を目的としている。
「蒸らし」は豆温度140℃程度に達するまでに加水分解を促進してメイラード反応の促進を目的としている。
厳密に考えると、蒸らしと水抜きは同時進行しているが、前半の豆温度にして140℃程度までを蒸らし、その後の豆温度180℃程度までを水抜きと考えると分かりやすい。
以上、コーヒー焙煎における「蒸らし」の定義と方法について解説しました。
あくまで私が考える仮設の一つですので、参考程度にお考え下さい。「私はこう思う!!」などご意見などありましたらコメント頂けると幸いです。
コメント
はじめまして。
大変わかりやすい内容ありがとうございます。
嘗て外熱焙煎をしていた頃は、概ね蒸らしに近かったような気がします。
現在はマイクロ波焙煎しかしておりませんが、敢えて水抜きを意識した操作をしない限り、
蒸らしに近い火入れになります。
更に、現在では、容器-20℃冷却マイクロ波焙煎、容器豆-20℃冷却マイクロ波焙煎、希にアームズ式的マイクロ波焙煎で、いずれの場合も順密封で1ハゼ開始3分代で行っていますので、水抜きか蒸らしかの観点からは、完全に蒸らしに振り切った方式を採っています。
中国の大型業務用機か豆・胡麻用の転用をしない限り調理用電子レンジを使用することになりますから、量的に業務には向かないのは分かりますが、本来、焙煎は中心部から加熱して表面が最後に焼けるのが本則ですし、実際非常に複雑な奥行きと変化に富む風味に仕上がりますが、量以外には、どういった問題があって普及していないのでしょうか?
長々と失礼致しました。
コメントいただきありがとうございます!
豆内部から熱を入れた方が、均一に火を入れるのにも適していて、良い面もある一方で、高度な測定器でもない限りは内部の温度を測定できず、再現性が乏しい(可能性)がある事、通常の焙煎機を用いた焙煎でも、均一な火入れは可能である(そう思っているロースターが多い)からあえて内部からの加熱にこだわらないなどの理由が考えられると思います。
大変興味深い考察をお教えいただきありがとうございます。