コーヒー本「珈琲の世界史」のレビューになります。
珈琲の世界史
◆990円(Amazon)
著者 旦部幸博
刊行 2017年10月18日
概要
序章 コーヒーの基礎知識
「コーヒーは、水、お茶に次いで世界第3位の飲み物」や「コーヒーの語源は?」など、歴史の前に基本知識を学んでいきます。
植物学的視点だけでなく、概念など、コーヒーの全容をまるっと要約。
コーヒーとはなんなのか、どの様に消費者に届けられて、どのぐらい飲まれているのか。具体的かつ明確に解説されており初心者にも◯
科学者である著者の旦部氏ならではの、統計や史実に基づいた準拠ある解説は消費者だけでなくプロにも読んでもらいたいコーヒーの基本知識。
1章 コーヒーの前史
コーヒーの発見について、現代に伝わる言い伝えや古代の史実からルーツを探ります。
「ヤギ飼いカルディ」に「シェーク・オマール」二大伝説の嘘、本当?
コーヒーが発見された時のエピソードとして伝わる有名な二大伝説は創作エピソードなのか?拠出ともに、明かされます。
本章コーヒーブレイクコラム
【動物の●●●から採れる最高級コーヒー】でかの有名なコピ・ルアクについて紹介されているのですが、邦画『かもめ食堂』でも登場すると言う事で、気になる人は見てみてください。
2章 コーヒーはじまりの物語
人類より遥か昔からあったコーヒーが人が発見されるまで、どのような道筋を辿ったのか、紀元前の歴史と共に紐解いていきます。
数々の索引を元に著者の考察を交え埋められるコーヒーと人の紀元前の謎。
伝説として語られている17世紀より遥か昔からコーヒーと人が出会っていた可能性を古代のキリスト教徒やイスラーム教徒の残した史料から読み解いていきます。
著者である旦部氏の体系的かつ、圧倒的な知識量がなせる唯一無二の考察なので、他の本では得られない知識です。
3章 イスラーム世界からヨーロッパへ
戦争の戦利品に商人の金儲けのタネ、はたまた外交官の手土産など、嗜好飲料としてのコーヒーの広がりを解説。
1500年頃に作られた世界で最初のコーヒー専門店。
嗜好飲料としてのコーヒーを説明するために欠かせないコーヒー専門店がイスラーム圏からどの様に広がっていったのか、一気に文明的な話にシフトしていきます。
もっとも、当時は今のような形ではなく、コーヒーの実ごと、またはその実だけを煮出したりして飲用されていたようです。
4章 コーヒーハウスとカフェの時代
17世紀入り登場したコーヒーハウスやカフェについて、当時の人々はどの様に利用していたのか。今とはずいぶん雰囲気も違ったようです。
欧米各国の17世紀のコーヒー事情とは?
今では紅茶で有名なイギリスが当時はコーヒー先進国だったり、現代とあまり変わらないスタイルのフランスやオーストラリアだったりと、興味深い解説の数々。
17世紀当初、死刑囚を使って「コーヒーの人体への有害性」を証明しようとしたスウェーデン国王。さて、結果は…本書をご覧ください。
5章 コーヒーノキ、世界へはばたく
17世紀当時、イエメンやエチオピアが独占していたコーヒーの栽培が、どのように世界に広がっていったのか。冒険やロマンにあふれた数々の逸話とともに解説されます。
コーヒー伝播にかかわるエピーソードはドラマの連続。
独占されていたコーヒーの苗木を自国に持ち帰ろうと、各国で様々なドラマが展開されていきますが、何より伝搬された品種の特性がそれを可能にしていました。
この時各国に持ち出された苗木がアラビカ種以外だったら、各地で定着できず、今もイエメンが独占栽培していたかも?(そもそも論は無しで。笑)
6章 コーヒーブームはナポレオンが生んだ?
「コーヒーにもっとも影響を与えた歴史上の人物は?」(著者は)ナポレオンだと答えます。(本書より出典)
19世紀のコーヒーを取り巻く環境がどのように変わっていったのか、歴史的偉人の行動から紐解きます。
ベートーヴェンにバルザックにサヴァン…有名人達も愛したコーヒー。
ベートベンは毎朝60粒のコーヒ豆を数えて、愛用のコーヒーミルで挽いて淹れていた、など、各々がこだわりも紹介されています。
19世紀を代表するフランスの小説家バルザックは、夜通し執筆するために50杯のだ事もあったとか。
7章 19世紀の生産事情あれこれ
コーヒーにより繁栄を極めていたイエメンや欧米各国の植民地の衰退と、ブラジルの台頭。19世紀に各国の生産事情が変わっていきます。
存続をかけたさび病との戦い。
紅茶の産地として有名になったスリランカ、ロブスタ種(耐病品種)生産が90%のインドネシア。コーヒーの生産を諦めた前者と、存続のために耐病品種に切り替えたインドネシア。両者他各国のさび病との戦いが今の品種改良に繋がっていきます。
日本ではマンデリンという呼び名で有名なインドネシア。アラビカ種の良質なコーヒーは全体の生産量の10%程度とごくわずか。これもさび病が原因だったりします。
8章 黄金時代の終わり
舞台は20世紀に移りコーヒーは二度の大暴落に見舞われます。その原因は病気?干魃?そのどちらでもなく人為的なものでした。
現在でもコーヒー相場の指標とされる仕組みはこの時に生まれたもの。
戦争や恐慌を原因としたコーヒーの取引価格の大暴落を防ぎ、生産者が安定的な取引を行える「国際コーヒー協定」は二度のコーヒー大暴落を契機に生まれたものでした。
一般に流通するコモディコーヒーとはこの「国際コーヒー協定」の仕組みのもとで取引されたものを指しています。
9章 コーヒーの日本史
世界的に見ると歴史の浅い「コーヒーの日本史」ですが、その実は国内で研鑽された高い技術で独自の進化をとげたまさにコーヒーガラパゴス島。
様々なカフェーが生まれた事でできた純喫茶。
西洋から入ってきたカフェーが形を変え夜の店としてのサービスを行う店もできていった中、コーヒーや軽食だけを普通に扱うお店として普通喫茶ならぬ「純喫茶」と呼ばれるように。
本書では大正から昭和までの、コーヒーを売りながら水商売を行う店を「カフェー」平成以降やフランスの「カフェ」と区別されています。
10章 スペシャルティコーヒーをめぐって
ファーストウェーブの時代、コモディティーが生み出した歪み「安価大量生産主義」に異を唱える人々により生み出された「スペシャルティコーヒー」
スペシャルティコーヒーの立役者「スターバックス」
ラテやエスプレッソ系メニュー中心の同ブランドですが、その躍進ぶりに多くの注目が集まり、「スペシャルティコーヒー」という言葉を知った人も多かったようです。
スターバックスの台頭により画一化されたエスプレッソがアメリカに広まったこの時代を「セカンドウェーブ」と呼びます。
終章 コーヒーの新世紀の到来
現在、そして未来のコーヒーを想う。COEやサードウェーブ、サステナビリティー、様々な言葉から読み解く今とこれから。
サードウェーブは一波にあらず。
現代のコーヒーを語る上で外せない「サードウェーブ」ですが細かくは三波に分かれ、スターバックスの影響を大きく受けていたようです。
2000年代初期アメリカのスターバックスのイメージが低下した事が発端となったサードウェーブですが、日本のスターバックスはこの時、理念を再編成して成功していったとか。
まとめ
序章 コーヒーの基礎知識
- コーヒは世界第3位の飲み物
- コーヒーの語源は?
- コーヒーの三原種
- コーヒができるまで
1章 コーヒーの前史
- 「ヤギ飼いカルディ」発見説
- 「シェーク・オマール」発見説
- コーヒーノキのルーツ
- コーヒーとの最初の出会い
- コーヒーは「禁断の果実」?
- 山中に取り残されたコーヒー
- エチオピア独自のコーヒー文化
- 【コーヒーセレモニー】
- 【人類初の「エナジーボール」?】
- 【生活儀礼と密接に結びつく】
2章 コーヒーはじまりの物語
- エチオピア南西部への進出
- 【キリスト教徒と西南部族】
- 【イスラーム教徒と南西部族】
- 『医学典範』にも収録
- 400年の空白期間
- 『東方見聞録』が語るエチオピア情勢
- 十字架のしもべ、アダム・セヨン
- 鍵を握るハラー
- イエメンのカフワ
- カフワからコーヒーへ
- ブンのカフワとキシルのカフワ
3章 イスラーム世界からヨーロッパへ
- コーヒー専門店の誕生
- オスマン帝国への伝播
- コーヒー反対運動の理由
- ヨーロッパにいたる4つの道
- 今のコーヒーのはじまりは?
4章 コーヒーハウスとカフェの時代
- コーヒー先進国−イギリス
- 「コーヒーは出生数を低下させる」
- イギリスコーヒーハウス百景
- 高級感のあるスタイルにはまる−フランス
- フランス革命はカフェから始まった
- 謎多き最大消費国−オランダ
- 女性たちが私的空間で飲みあった−ドイツ
- ビリヤード、新聞、クロワッサンとともに−オーストラリア
- コーヒーハウスが公民館の役割も担う−アメリカ
- ボストン茶会事件を契機に
第5章 コーヒーノキ、世界へはばたく
- アラビカの二大品種
- ティピカの系譜−イスラーム教徒による伝播
- ジャワコーヒーのはじまり
- 高貴なる樹
- ド・クリューと「ティピカ」
- ブラジル伝播はロマンスの結果⁉︎
- 盗み出さなかった唯一のコーヒー「ブルボン」
- コーヒーは「金のなる木」
6章 コーヒーブームはナポレオンが生んだ?
- 大陸封鎖によるコーヒー不足
- ナポレオンの置き土産
- 第一次コーヒーブームの幕開け
- 新しい抽出器具ブーム
- 第二次コーヒーブームの到来
- ブームを支えた技術革新
- 史上最大の反コーヒーキャンペーン
7章 19世紀の生産事情あれこれ
- 港の衰退とブランドの存続−モカ
- フランスのコーヒー植民地の衰退−ハイチとレユニオン
- ナポレオンが生んだ最大生産国−ブラジル
- 高品質志向のコーヒー先進国−コスタリカ
- ブルーマウンテンの起源
- ハワイのコナ、東アフリカのキリマンジャロ
- さび病パンデミックの衝撃−インドとスリランカ
- さび病との戦いへ−インドネシア
- ロブスタの発見
8章 黄金時代の終わり
- コーヒーを独り占めにした男
- 第一次大戦による大暴落
- アメリカの一大販促キャンペーン
- 史上2度目の大暴落
- 第二次大戦時、兵士に支給された
- コーヒーブレイクの誕生
- 国際コーヒー協定の誕生
- 渡りコーヒー
- 第二次さび病パンデミック
- 「ファーストウェーブ」?
9章 コーヒーの日本史
- 「焦げくさくして味ふるに堪ず」:江戸時代
- 初の本格喫茶「可否茶館」:明治前期
- 「カフェー」の出現:明治末期
- 日本コーヒー史の原点「カフェー・パウリスタ」
- 水商売系の「カフェー」
- 日本のファーストウェーブ?「純喫茶」
- 戦争と復興
- コーヒーの大衆化
- 「でもしか喫茶」と日本最大の喫茶ブーム
- 日本のセカンドウェーブ?「直焙煎店」
- 1980年代後半は「喫茶店冬の時代」
- 日本のサードウェーブ?平成の「カフェ」ブーム
10章 スペシャルティコーヒーをめぐって
- スペシャルティコーヒーの祖父
- スペシャルティコーヒーの生みの親
- ジョージ・ハウエルの「汚れなきコーヒー」
- SCAAの発足
- 天下を取った異端児「スターバックス」
- 日本に波及するスペシャルティ
- 冷戦が生んだフェアトレード
- コーヒーを襲った二度の危機
- 天下一(?)品評会
終章 コーヒー新世紀の到来
- カップ・オブ・エクセレンスの時代へ
- コーヒーに魅せられる東アジア
- サードウェーブってなんだろう?
- サードウェーブの舞台裏
- 日本のコーヒーの再評価
- 日本のコーヒー新世紀
- コーヒーの将来を想う
以上、12章、100以上のトピックについて説明されています。
コーヒーヒストリーが濃縮された本書は、名作小説級のそれを思わせるずっしり、それでいて明快な読み味。
「コーヒーの科学」の著者としても有名な旦部先生が書かれたコーヒー歴史本は、期待通り文字でびっちりの濃厚な読み応えで、コーヒーの始まりから現在までしっかりと解説されている、コーヒー歴史書の決定版。
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